恋、はじめました
#3 first contact
翌日、彼女が乗る車両を変えやしないかとの危惧は徒労に終わった。
彼女は列の先頭に立っていた。なかなか機転がきく。
彼女の背後で残念がっているだろうスケベどもにざまぁみろと舌を出してやりたい気分だ。
ドアが開く。
俺は、スケベヤローの気持ちを一瞬で理解した。
障害物が一切ないまま、彼女を頭のてっぺんからつま先まで拝んだのは初めてだ。いつもハゲや汗臭そうな男の影に隠れて部分的にしか見えていなかった。
ドアが開いた途端、天から光が差したかと目を疑った。いや、紛れもなく後光が差してる。絵に描いたようなナイスバディから後光が差している。
目が釘付けになったのは言わずもがな、胸だ。
でけえ。
でけえだけじゃなく形も俺の理想。それはスーツの上からでも分かる。そして黒いタイトスカートから伸びた健康的できれいな脚。
・・・が、こっちに向かって歩いてくる。
俺の背中側、ドア横の座席が空いてる。彼女はそこに座った。
俺の目線の下。
結い上げた髪が空調の風に揺れる。
そして、目の端で捉えるそれは谷間。シャツの隙間にくっきり谷間!なんてこった!これじゃあ、俺が痴漢じゃあねえかあ!いやいや、待て待て、別に触った訳じゃねぇ!
たまたま彼女が座れて、たまたま俺がその横に立ってて、たまたま視界に谷間が飛び込んできた。そんな偶々状況だ、ああ、そうだ。それだけだ!
これは痴漢行為なんかじゃねぇ、断じてねえ!
証拠に彼女は俺のことなんぞ意識もしていない。悲しいかな。
が、こんなチャンスが明日も巡ってくるとは限らない。
だからじっくり観察することにした。
俺ぁ、おっぱいには一家言持ってんだ。
でかきゃいいってもんじゃねえ。でかくても垂れ下がってたら興醒めだ。
ツンと上向いたバストトップに浮き浮きしながらブラジャー取った途端に視界から乳がいなくなるなんて事態は御免被る。んなものは誤魔化しだ!欺瞞だ!寄せて上げてただけじゃねえか!寄せ上げ詐欺じゃねえか!
それに、俺は乳絞りに興じる趣味はねえ。酪農家になる気もねえ。
大きさはほどほどでいいんだ。
俺の掌じゃちょっと足りないぐらいの大きさ。んで、ぷるんと張りがあって、ブラジャー取っても下がらない、寝ても流れない。自重に負ける、寝ると垂れ下がるおっぱいなんてごめんだ。
その理想のおっぱい(多分)が目の前にっ!そして、行儀よく揃えた膝。背筋はスッと伸びてスマホじゃなく、本を読む姿が、キレーだ。
俺はもっとじっくり不自然じゃなく眺められる体勢に、凭れた壁を少しずらした。
そして、これが定位置になった。毎朝の楽しみが目の前からいなくなったハゲどもは、恨めしそうに彼女を見ている。諦めがわりぃ。
いい匂いがする。ミカンと花を合わせたみたいな、爽やかで、甘い、いい匂い。朝の気だるさ、面倒臭さが払拭されるような匂い。
これも彼女からほのかに香って来る。
美女ってのは匂いも良いんだ。
降ってわいた天からの恵みみたいなこの状況に俺はご満悦。通りすぎる駅も気にならないほど。
「次は吉原、吉原です」
彼女は読んでいた本をバッグにしまい、立ち上がった。ここで降りるの?え?
「あっ」
思わず零れた声に、しまったと思った時はもう遅い。
俺の声をなんと思ったか彼女が振り返った。
バカだ、俺。
振り返った彼女と目があった。
うわっ!やべえ、まじ、やべえ!
間近で見ると肌の白さと目の青が普通じゃねえ。
動作の一つ一つが優雅でここら界隈の人間とは思えねえ。
目をそらすこともできずに彼女を凝視する俺。
変なヤツと思われやしねぇか?
内心大慌ての俺とは逆にクールそのものの彼女は俺に向かって軽く会釈した。
え?ええええええ?今、俺に?俺に会釈した?彼女?えええええ?
ってことは、俺の存在、彼女も多少意識してたってこと?
えええええ?
___どゆこと?
to be continued...