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あまえたいあまやかしたいあまえたい

パチンコに大負けしてそのまま万事屋に帰るのも癪に触るから、スクーターを吉原に走らせた。

少し飛ばせば江戸の排気ガス臭い空気に磯の匂いが混ざり始める。海沿いを抜けると巨大な造船所跡地。ここまで来るとパチンコで負けたこともどうでもよくなって、初めからそれが目的だったみたいに頭の中が切り替わる。と同時にシフト・・・、はねえからスピードを上げる。無粋なコンクリートの壁に囲まれた銀色の扉がギラギラと陽の光を反射している景色が見えれば、ふんふ〜ん🎶と鼻歌まで歌っちまう。
あれ?俺なんで上機嫌?いつから上機嫌?パチンコ負けたのに。なんだか上がり気味のテンションが不可解だけど、まあ、いいや。
ハンドルを切って緩いカーブを走り抜ける俺の視界で、波間に漂う光の破片が誰かの笑顔みたいに煌めいた。

 

 


地下まで降りる昇降機の中、俺の足は落ち着きなくコツコツと床を叩く。地下に辿り着くまでのわずか数分も刻み取るみたいに。ちんっ、と安っぽい鐘の音が鳴って扉が開く。同時に大股で昇降機の外に飛び出す。その勢いのまま、大門を潜ろうとしたところで張り番をしている月詠の部下たちと出くわした。そのうちの一人が、あ、銀様、と慌てたように頭を下げた。なんか今、一瞬ぎょっとしなかったか?と思ったが、昼日中、俺が一人で吉原に来るのが珍しかったのだろう。深く考えるのは止めて頭の上の疑問符を端っこに追いやる。
百華の連中のきびきびと動く様は月詠の日ごろの鍛練の賜物か。幕府の鈍らった侍なんぞより、余程使い物になる部下たちに挨拶がわりに手を上げる。すると、聞いてもいないのに月詠が非番であることを教えてくれた。
あれ、?確かこの前の非番は3日前。いつものローテなら今日は番屋にいるはず。昇降機を下りたら真っ直ぐ番屋に向かう腹積もりだった俺は、多分怪訝な顔をしたんだろう。部下たちの目が心なしかキョロキョロと宙を彷徨う。なんか引っかかる。と言って何がどう引っかかるのか、説明はできない。
飛び去りそうな疑問符を呼び戻して、部下たちの顔をじっと眺めたが彼女らの素顔なぞ知らない俺は、マスクの下にどんな思惑が隠されてるのか読み取れねえ。喉に魚の骨が引っかかったみたいで居心地が悪いが百華とにらめっこするためにここに来たわけでもない。とりあえず、月詠がいない番屋に行くという無駄足は踏まずに済んだのだから、ありがとよと、言葉だけかけてひのやへ向かって歩き始めた。

 

 


目抜き通りを真っ直ぐに数分。立派な一枚板にひのやと屋号を彫りだした看板の下、柱にもたれて、伏し目がちに煙管を吹かす姿が、ない。非番のはずなのにない。さっき追いやった疑問符が舞い降りて来る。

「ごめんくださ~~~い。」

いつもは口にしない言葉を奥に向かって投げてみたが店の奥もシーンと静まり返ってなんの反応もない。

「・・・誰もいねぇのか?無用心だな・・・。」

店は開けっ放しで店主も店番もいない。
が、切羽詰まった何かを感じる訳じゃない。整然とした店内は荒らされた様子はない。

「勝手にお邪魔しますよ。月詠、日輪さん?」

店の奥、住まい屋に続くのれんをかき分け、目だけで様子をうかがう。やっぱり人の気配がない。ふと目についた見慣れた黒いブーツ。こういうところはきちっとしている月詠に似つかわしくない靴の脱ぎ方。三和土のあっちとこっちに脱ぎ捨てたように転がっている。しんと静まり返った空気とこの景色がいかにもちぐはぐで気持ちが悪い。地板に膝をついて、上半身だけ乗り出し廊下の奥の様子を確かめるが、やはり人気は皆無。俺は上がり端に腰を下ろしてブーツを脱いだ。ついでに脱ぎ散らかした月詠のブーツも揃えておく。

「お邪魔しますよっ・・・と」

誰にともなく断って廊下を進む。きしきしと床板が鳴くが、それに対してもなんの反応もない。

「つくよ〜?」

廊下の突き当たり、月詠の部屋へ続く階段の下から二階に向かって声を掛け、そろそろと階段を上がる。
階段を上りきったところ、月詠の部屋の襖はいつも通りきっちり締められていて、異変を知らせる要素は見つからない。だが、何かが違う。いつものひのやじゃない。

「月詠ちゃん?」

何故か、呼び捨てではなく、ちゃん付けで襖越しに呼んでみたが答えはない。

「月詠?」

三度目は襖を軽く叩きながら呼んでみた。

「・・・」

室内から何やらくぐもった声。月詠の声と認識できないほどの微かな声が聞こえる。普段なら女の子の部屋という配慮など全くなく開けるところを片目で覗ける程度にそろりと開ける。数センチの隙間から月詠の部屋を覗き見る事態に、訳もなくドキドキしながら室内に異常がないか確認すると。

一番近いところに網タイツが片方、続いてまた片方。ブーツと同様、脱ぎ捨てましたと言わんばかりにほったらかしてある。

「・・・は?」

そのまま視線を奥へと移す。紅色の帯が解いたそのままの形で放り出され、その下から帯〆らしき細い紐と背中に装備している匕首が覗く。更にその先にくないの簪と紙紐が畳の上に散らばる。

「月詠!!!」

思わず叫んで勢いよく襖を開ける。スパーンと枠木が柱にぶつかる小気味良い音に部屋の真ん中に鎮座するもこもこと丸まった布団がビクッと震えた。竹輪みたいに丸まった布団の端から素足が覗いている。それがもぞっと動いて竹輪布団の向こうから、銀時?と、弱々しい声が漏れた。俺は慌てて足元に散らかる網タイやら帯やら蹴散らしながら、声の元へ走りよった。
押入れから掛け布団だけ引っ張り出して、そのまま包まっているのか、竹輪の穴から金髪の束が溢れている。

「月詠!?どうした?何があった!?」

布団の端をそっと押さえて覗き込む。真っ青な顔。

「・・・おめえ、真っ青じゃねえか」

元々、色白なのは知っている。けれど、今日のこれは尋常じゃない。真っ青、というより血の気がない。紅を指さずともほんのり色づいているはずの唇まで、まるで紙のように血色をなくしている。大門で出会った部下たちのきょときょとと定まらない目つきはこれが原因かと言葉にせずに訝る俺に、大丈夫じゃ、騒ぐなと、お決まりの強がりが発動する。

「何が大丈夫だ!こんな顔色で!」

そうだ、こんな状態の月詠を置いて、日輪はどこに行った?大事な大事な妹分のこの状態を彼女が知らぬはずがない。

「日輪はどうした?なんでいない?」

「日・・・、の輪は、寄り合い、が、あって出掛けている・・・」

枕元、とは違うが、まあ、そんな位置に立膝ついて、大声で問いただすと、月詠はいかにも辛そうに途切れ途切れに答えを返す。

「寄り合いって、なに?こんなお前を放っぽってか?」

合点がいかないまでも日輪がいないのは事実だ。またまた声を荒げると、月詠は騒ぐな、なんでもないんじゃと、喋るのも大儀そうに顔をしかめる。

「脂汗浮かべてるくせに、何が何でもないだ。戦闘で負傷した時の方がまだましな顔してるぞ。」

身体に刃を受けても平然としていられる月詠をこうまで苛むものってなんだ?思い当たるものがなくてイラつく俺の袖を月詠が引く。釣られて彼女の口元に顔を寄せる。

「・・・」

疑問は氷解したが、違う意味で固まった。あ、そう、そういうことね。なんだ、焦って損した、人騒がせな、と思う反面ホッとする。理解した脳で改めて月詠の様子を確かめる。
彼女を苛む痛みは一定の波があるのか、弛緩したかと思うと、じわじわと身体が強張る様子が包まっている布団の上からでも分かる。長い睫毛が震えて、眉間に深いシワを刻んで、色を失った唇を噛んで堪えている。背中をエビみたいに丸めて、布団にしがみついている。額と言わず、こめかみと言わず脂汗が浮いて、貼り付いた金髪の中に消えていく。それでこの有様かと散らかった室内を眺めて更に理解した。
網タイツやくないの簪、さらさらの髪をきりりと結い上げる紙紐。家にたどり着くや、身に纏う煩わしさをかなぐり捨てながら自室に戻り布団に丸まった結果がこれだ。
そこまではなんとなく理解できるが、そうまで身体を痛めつける障りというのが想像できない。刀傷や骨折なら分かる。虫歯とか、腐ったカニに中るとか、インフルエンザ。これでも十分かもしれないが、そんなことぐらいしか知らない俺には想像もつかない。そんな痛みに耐えることも。

「医者、呼ばなくていいの?」

さっきまでの荒ぶる声とは打って変わって、そっとそう問えば、布団の中で小さく冠を振る。

「薬とかないの?」

今度はこくんと頷く。でも、それってことは。

「毎回、こんななの?」

「・・・初めて・・・、 じゃ。」

こっちが心細くなるぐらい答える声が弱い。初めてって、そんなことあるのかよ?さっぱり分からないから、自然と疑問が口から滑り落ちる。

「・・・、か、環境の変化など、で、そんなこともある、そう・・・じゃ。」

辛いなら答えなきゃいいのに、律儀に答えてくる。本当かよ。なんとまあ、デリケートな。今度は声にしないで独り言ちるが、言われてみれば、ここ数ヶ月、月詠の身の回りは色々とあった。その一つをもたらしたのは誰あろう、

・・・俺だ。

そこに思い至ると、目の前で息をこらしている月詠に対してなんとも言えない罪悪感が生まれる。何をどうしたら、それから解放してやれるのか。切り傷や骨折なら手当はできる。食中毒なら体内の毒素をケツから出しちまえばそれまでだ。けど、今、月詠が抱えているこれは、手当の仕方も、そもそも手当の方法があるかどうすら分からない。そっちから去って行ってくれるのを待つしかねえのか・・・。
暫く黙って様子を眺めてみたが布団の中の月詠の様子は変わらない。せめて吹き出す汗ぐらい拭ってやろうと辺りを見回したが手拭いも見当たらない。と言って、乙女ちゃんのタンスを引っ掻き回すのは、いくら無神経な俺でもいかがかと思う。ま、これがババアなら容赦なしに行かせてもらうが、ってか、ババアのタンスの中身など頼まれたって見たくもねえが。仕方なく、半脱ぎの袖を引っ張って袖口で汗を抑えてやると月詠はうっすらと目蓋を開いた。

「すまぬ」

「なんでツッキーが謝んの?こんな時に遠慮するんじゃありません。・・・なんかねえの?頭冷やすとか、なんかあるでしょ?」

「部下が冷やすな、温めろと言っておりんした。」

ほら、やっぱり、奴ら、月詠がこんなだって知ってたんだ。
だから、突然の非番。だけど、奴らの大事な頭のデリケートなことを勝手に俺に喋っていいかどうかわからなくて目が泳いでたんだ。

愛されてるね〜、そして、俺、救世主様とか言われてんのに、まだ、そこまでしか認められてないんだね~。結構、信頼されてると思ってたのに、ふ〜ん。ちょっと残念というか、寂しい気持ちなんですけど、銀さん。

・・・まあ、いい。今はそれどころじゃねえ。あっためろってことは、

「湯たんぽ、ある?」

また、冠を振る。汗粒が二つ、三つ、合体して頬を伝う。しょうがねえ。俺は押入れから敷布団を引っ張り出して、畳の上に直に転がっている月詠の横に敷いた。

「捕まれ」

「ぎ・・・?」

俺の名前を言い切る前に、包まっている布団ごと月詠を抱きかかえると、布団の中でひゃ・・・っと、可愛い声がした。
うちのせんべい布団とはふかふか感もシーツの肌触りも雲泥の差の極上敷布団の上に月詠を下ろす。優しく、丁寧に、労わるように。そして、俺も月詠の隣に身を投げ、彼女の手から布団の端をもぎ取って、その中に滑り込んだ。

「銀時?」

俺の意図を理解しかねるのだろう、月詠が布団の中で目を丸くしながら、首をひねって俺を見る。ああ、もうさらっさらの金髪が汗でベトベトだわ、おっきな目のまわりはダークマターに浸食されたみたいだわ、頬まで削ぎ落としたみたいにげっそりしてるわ。

「どこが痛いの?どんな風に?」

あっためたくても湯たんぽもねえんじゃ、人肌しかねえだろ?後ろを向いた小さい頭をくいっと前に向かせ背中側から腕を回して言うと、月詠は素直に腰が割れるように痛いと告げる。何それ?ぜんっ然意味分かんねえ。

「下腹に火かき棒突っ込まれて掻き回されてるみたいじゃ・・・」

なんか今、しれっとすっげーこと言った?腰割れるぐらい、棒で下腹掻き回すって言った?エロくね?それってエロくね?なんなら俺、いつでも火搔き棒になりますけど。銀さんのぎんぎんさん火搔き棒になっちゃいますけど。突っ込んでかき回しちゃいますけど。

「・・・っいっ」

そんな俺の猛々しくも楽しい妄想を一蹴するかのように、痛みがぶり返した月詠の体が緊張する。

「触るよ?」

普段ならこんな密着許されねえ。何時もの元気な月詠なら瞬殺されて終わり。でも、今日ばかりはそんな元気はないみたい。こくん、と頷き一つ返される。俺は妄想を蹴散らして、両手を擦り合わせ、息を吹きかけてから月詠の下腹にあてがった。そのまま、俺の腹に月詠の腰が触れるように少しずれて、枕がわりに首の下に差し入れた左腕を身体の前に回して肩をさすってやる。俺の手に重ねて握り返す指先が驚くほど冷たい。

「痛え?」

肩越しに尋ねると、また、頷き一つ。男の俺には一生かかってもわからない痛み。同じ性を持つもののみ共有できるそれ。

「すまねえな、俺ができることと言ったらこんなことぐらいだ。」

痛みから守るように月詠を抱きしめる。目の前の頭がふるふると震えて、十分じゃと零れる声が儚い。
代わってやるどころか理解することもできない痛みを抱えて生きる健気な生き物。
密着した背中は呆れるぐらい薄い。抱いた肩は驚くぐらい細い。どアップで目にする頸の、じっとりまとわりつく汗で湿り気を帯びた肌がたまらなく色っぽい。平らな下腹と冷え切った右手でサンドイッチにされた俺の手だけが熱い。
月詠の痛みが俺の掌に移ればいい。捻って握りつぶしてゴミ溜めに捨ててきてやる。強くてどこか俺より漢前なこの女の、弱々しい姿に唐突に愛おしさが溢れ、回した腕に力を込める。

「女の子って大変なのな。」

誰に言うでもなく呟けば、銀時、と改まった声で呼ぶ。思わず起き上がって顔を覗き込むと、疲れてはいるが、まっすぐな眼差しとぶつかる。

「そろそろ神楽も年頃じゃ。気をつけてやりなんし。」

弱った声でそんなことを言う。ああ、もう、この娘ってば。人の心配してる場合かよ。
本来、そういうことを娘に教える役割は母親のもの。だけど、神楽はその母を亡くし、父親とも離れ離れで今の保護者は俺。月詠の心配もわからないでもない。
うちはババアがいるから心配無用だと言うと、そうか、そうであったな、ならばよい、と柔らかく笑う。優美に歪む唇が少しひび割れていて痛々しい。舐めて湿らせてやりたいがぐっと我慢の俺ってすげえ。

そうだな、例えば神楽がこんな風に苦しんでいたとして、俺はこんなことしないから。違うことはするかもしんねえがこんなことはしないから。こんなことするのも、したいのもお前だけだから。
そんな赤面物の、吐きもしない口説き文句が頭を過って、ああ、俺はこいつにぞっこんなんだと確信した。





「銀時」

障子が薄いオレンジ色に染まるまで俺たちはまんじりともせず布団の中にいた。畳に映る格子の影が陽が傾いてきたのを告げる。その頃には腕の中の月詠が身体を強張らせる間隔もだんだん開いて、ゆったりしている時間が長くなっていた。そして、漸く痛みから解放されたのか、ほっと息を吐いて俺を呼んだ。

「ん?」

「ありがとうな。随分、楽になりんした。」

そりゃ、良かった、役に立てて何よりだよと、頭を撫でてやる。そうか、だったらもう、いつまでもこんな風にしている必要もないなと口に出したら、本当にそうなりそうで、ちょっと怖い。
俺の言葉にならない独り言が通じたのか、月詠は一瞬、俺から離れようとして少し身動いだが、思い直したように腕の中におさまり直す。俺は俺で月詠の動きに気づかないふりを決め込む。無理して起きたり、俺を追い出す素振りもないから、それを良いことに俺も動かない。月詠は枕にした俺の左腕に冷たい指先を添わせたまま、じっとしている。

離れがたい。

月詠もそう思ってくれているといい。俺の腕の中が心地いいと思ってくれていると。そう願いながら彼女に絡ませた腕を少し緩める。
日輪か晴太が帰ってくるまで、多分、あとわずか。強い女が大人しく腕の中にいる時間なんてあっという間。だから、もう少し、あと少し、なんて思ってる俺が乙女だよ、コンチクショー。

そう言えば、と何かを思い出したように呟く月詠の声はいつも通りの張りを取り戻している。背中を少し離せば、途端にひんやりとした空気が侵入する。これまでかな?残念な気持ちが頭をもたげる。

「何か用があったのではないか?」

半分、振り返る顔もほんのり赤みが指してきた。

「パチンコで大負けしたの・・・」

今度は俺が月詠の肩先に顔を埋める。藍色の布越し、月詠の汗の匂いにそっと鼻腔を膨らます。そんな俺の動きに気づかない月詠の細い肩がやれやれ、と上下して、俺の頭をわしゃわしゃする。そして、神楽と新八を呼びなんし、と笑った。それだけで他に説明はいらない。晩飯たかりに来たと思われてるのは間違いねえが今はそれで十分だ。
本当の用向きになんか気づかなくてもいい。そもそも、特別用事があったわけじゃない。パチンコに大負けして、給料貰ってないだの、家賃どーすんだ、だのとぶーたれる子供たちの顔を想像してげんなりした。そしたら、何の迷いもなくここに足が向かった。月詠の顔が浮かんで会いたくなった。

・・・なんて俺もさっき気がついたばかり。

でも、そんなことは言わない。まだ、男と女の軛なんかいらない。

「流石、太夫。吉原一気がつく女。」

からかい気味に細い肩にぐりぐりとデコを押し付けると、やめなんしとくすぐったそうに身をよじって逃げようとする。月詠の身体が俺の束縛をすり抜ける前にヘッドロックで閉じ込める。どさくさ紛れのスキンシップはセクハラオヤジと変わらねぇが、この際、多目に見てほしい。これ、銀時、離しなんし、なんて、花が咲いたみたいな笑顔を零すのに離すわけない、離すはずない、俺の天邪鬼舐めんなよ、こら。



何を伝えた訳じゃないけど何となく通じあっちゃうそんなところが心地良い。
何かを確かめた訳じゃないけど何となく触れあえる思いが気持ちいい。

男女のそれじゃないこんなじゃれ合いだって、犬っころみたいで十分楽しい。

男と女の鎖なんてまだいらない。
それはもっと互いの欲が高まってからでいい。
今はまだ、うすぼんやりとした気持ちの中で、ただ、甘えて甘やかして甘やかされて。そんなことが叶うのは、

___きっとお前だけなんだから。





fin.

 

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